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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)436号 決定 1977年11月09日

抗告人 寺門哲也

抗告人 寺門利明

右両名代理人弁護士 馬場直次

相手方 北村英

右代理人弁護士 森三千郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

(抗告の理由)

末尾添附抗告理由書記載のとおり

(当裁判所の判断)

一  記録によると、本件土地を含む地域については、昭和四八年一一月二〇日東京都告示第一二一三号(同日施行)をもって防火地域の指定がなされたこと、本件借地権の存続期間が昭和三四年七月二七日から昭和六四年七月二七日までであることが認められる。したがって、本件借地権の設定の際防火地域でなかったものがその後防火地域として指定されたのであるから、右は非堅固の建物の所有を目的とする借地権を設定した後に借地法八条の二第一項の「事情ノ変更」が生じたものというべきである。しかし、防火地域の指定は、もと建築基準法上の公共的な要請に出ずるものであり、これに対し、借地法八条の二第一項の借地条件変更の手続は、直接公共性に奉仕させるためにこれを設けたものではなく、土地の合理的利用の促進という社会的要請の観点に立ちつつ、あくまでも契約法の分野においていうところの事情の変更によって当該契約を合理的に変更し得る道を開くことを主眼とするものであり、併せて同法八条の二第四項の規定する一切の事情を考慮して借地条件変更許否の判断をすることを要すると解すべきであるから、防火地域の指定という事情の変更があれば常に借地条件を変更する裁判がなされるべきものとは限らないというべきである。所論は、防火地域の指定という事情の変更があれば、特段の事情のないかぎり、借地条件変更申立を認容する裁判がなされるべきであるというものであるが、後記二に説示するところに徴し明らかなとおり、また、原決定がその理由末段において指摘する本件土地を含む抗告人ら所有地の効率的利用についての事情等を考量するときは、抗告人らの現有建物が附近の土地利用状況等と対比して、土地の合理的利用の観点から不相当となるにいたっているとは認め難いから、論旨は理由がない。したがって、抗告理由書記載一の抗告理由は採用しがたい。

二  本件土地を含む相手方所有の土地一筆すなわち東京都文京区本駒込一丁目八二番一宅地六七〇・一一平方メートルは、本駒込一丁目内からいわゆる白山通りの白山上交差路に出る幅員四メートル乃至五メートルの通称新道通りと右白山通りとに挾まれた楔状の地区の尖端部を占めて位置し、したがって、本件土地は新道通りに面していること、新道通りは、古くからの近隣型の両側小売店街で、昭和四七年六月都営地下鉄六号線の開設いらいやや活況を呈してはいるものの、最寄駅である右地下鉄線白山駅から徒歩約四分でありながら、集人施設に乏しく、白山駅方向からの一方通行のほか、日中は一定時間を除き車輛の乗入れ禁止の交通規制があり、商業地域ではあるが、前面道路幅員が五メートルであることから許容容積率は三〇〇パーセントに制限されていること、本件土地の附近の土地すなわち右楔状地区及びこれに隣接する新道通りの後背地は、中級住宅地域を形成して一般の個人住宅、共同住宅等が混在するほか、寺院、墓地、学校等が点在し、建物の不燃中層化の傾向も漸次見られるものの、地域一帯の店舗、住宅等は木造低層建物が主勢を占め、利用状況から見るかぎり低層店舗住宅併用地が標準的用途となっていて、今後とも当分は現状を維持するものと予測されることが記録上認められ、右認定をくつがえすに足りる資料はない。

本件土地の附近の土地の利用状況にして右のとおりであるから、仮に本件借地権の設定当時に比して附近の土地の利用状況に変化があるとしても、本件土地について現に借地権を設定するとした場合において、堅固の建物の所有を目的とすることを相当とするには至っていないとみるべきである。所論の借地条件変更の相当性を首肯するに足りる資料はみあたらない。抗告理由書記載二から四までの抗告理由は理由がない。

三  抗告人らは、借地法八条の二第一項にいう「其ノ他ノ事情ノ変更」として、本件借地権の残存期間が昭和六四年七月二七日までの相当の長期間であること、本件借地権は抗告人らの先代亡寺門倉が昭和二二年九月に相手方との間に設定し、昭和三四年七月に更新したものであるが、右更新に際して更新料が支払われたこと、抗告人らは、それぞれ、家業、家族構成上本件土地に三階以上、延面積一〇〇平方メートルを超える耐火建築(当然堅固建物)を築造する必要に迫られていること、及び相手方が本件土地を含むその所有地六七〇・一一平方メートルに共同ビルを建築する計画をたてているが、抗告人ら借地人(一〇名)、借家人(五名)の納得を得ることができなかったことを挙げるけれども、同法条にいう「事情ノ変更」は、当該借地権の設定当時の当該土地の客観的な状況が変更して堅固の建物を築造するのに相応しい土地となった場合についていうのであるから、客観的状況の変更であって、主観的な事情の変更ではないというべきである。抗告人らの右に挙げることがらはいずれも主観的な事情に属するものに係ることが明らかであるから、所論の事情の変更は理由がない。抗告理由書記載五及び六の抗告理由も採用のかぎりでない。

そうすると、本件土地については、現段階において借地権を設定するとした場合、必ずしも堅固の建物の所有を目的とすることを相当とするに至っているとはいえず、借地法八条の二第一項の要件を充たさないものといわなければならない。

よって、本件借地条件変更申立を棄却した原決定は相当であって、本件抗告は理由がないから、借地法一四条の三、非訟事件手続法二五条、民事訴訟法四一四条、三八四条一項、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 荒木秀一 裁判官 奈良次郎 裁判官中川幹郎は裁判の合議成立の後転補したので署名押印することができない。裁判長裁判官 荒木秀一)

<以下省略>

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